第一次世界大戦はイギリス女性作家たちを強力に魅了し続けてきた。それは、この戦争がイギリス国民の、とりわけ女性たちの生きかたを大きく揺さぶったからであろう。家父長制度を守ろうとする保守的な女性たち、それに反してさまざまな場面で自立を求める「新しい女」たち、過激な活動も辞さない婦人参政権論者、過酷な条件の下で不満を押し殺して生きる労働者階級の女性たち─19世紀末から20世紀初頭のいわゆる世紀転換期を生きていたこれらの女性たちは、戦争という巨大なエネルギーのなかで一様にそれまでの生きかたを変えることを強いられる。男たちが戦地に赴いた後、バスやトラックを運転し、工場で兵器を生産し、軍服や防毒ガスマスクを縫い、農地を耕作したのは女たちだった。このように国内(ホームフロント)で働く者もいれば戦地(バトルフロント)にて救急車の運転手や看護婦として活動する者もいた。ヴィクトリア朝時代の根幹であった階級制度は崩れ、女性たちのあいだに一体感や平等意識が生まれた。いや、急いで付け加えれば、戦争観を軸にした新しい階級地図が出現した。
作家たちはこの新しい地図のありかたを鮮やかに描きだしている。当時の大人気作家M. コレリーは戦争支持を強く主張した。平和主義の立場を貫いたV. ウルフは新しい手法を駆使して戦争の虚しさを捉えた。大学を中退して恋人を追って戦地に赴き、そこでの看護活動体験を具に記したのはV. ブリテンだ。R. ホールは同性愛者の生を戦争を背景に描写した。誤解を怖れずに言うならば、戦争は多様性に富む文学を創りだしたのだ。そして、この「第一次世界大戦文学」は現代ではP. バーカー、S. ヒルといったきわめてすぐれた作家たちによって展開されている。
この度復刻された新聞資料を見たとき、「写真とペン」の力がそこにあることを認識した。それは当時を生き、書いた女性作家たちと現在を生き、第一次世界大戦を書く作家たちの世界が私のなかで結びついた瞬間だった。