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第一次世界大戦とイギリス政治

小関 隆 京都大学准教授

 

 第一次世界大戦(以下では大戦)期のイギリス内政が抱える最大の懸案はアイルランド問題であった。ナショナリストの宿願であったアイルランドへの自治権付与は実現目前に漕ぎつけていたが、アルスター地方を拠点とするユニオニストが強硬な反対の姿勢をとり、イギリス政府による妥協の模索が功を奏さない中、双方の義勇軍も設立されて、内戦の勃発を危惧する声もあった。いわゆる「7月危機」の最中にも、世論の関心はヨーロッパ大陸よりもアイルランドに向けられた。大戦の勃発は情勢を一変させる。ナショナリスト指導者が戦争協力方針を打ち出したこともあり、約20万人のアイルランド人がイギリス軍兵士として従軍するのである。第二次世界大戦の際に中立を保ったアイルランドにとって、大戦は史上最大の戦争であった。今回の復刻資料集に収められたThe "Manchester Guardian" History of the Warは、戦争協力方針の反響や募兵運動の様子からイースター蜂起の衝撃とその余波までを詳細に伝える第一級の資料といえる。特に豊富に添えられた写真は貴重である。

 また、The War Illustrated: Album de Luxeに掲載されているH. G. ウェルズ「イギリスはなぜ参戦したのか?」は、『戦争をなくすための戦争』(1914年)の著者の思いを端的に表明した文章として実に興味深い。平和主義を志向する一方で、ウェルズは、「プロイセン帝国主義」を打倒し、「狂気を祓い浄める」ために、大戦という「平和のための戦争」を熱烈に支持した。「最後の戦争」「戦争をなくすための戦争」といったフレーズはイギリス国内の反戦主義を封じ込めるうえで力を発揮したのだが、次なる世界大戦が惹起されたことを知る私たちの耳には痛みをもって響く。

  開戦100周年を控えた今、大戦を知るうえで有益な資料を他にも数多く収録するこの復刻資料集が広く読まれ、大戦認識の深化を促すことを期待したい。