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女性は大戦をどう生きたのか~「銃後の戦い」をあぶりだす貴重な史料~

林田 敏子 摂南大学准教授

 

 戦争中ほどジェンダーの境界が強く意識される時代はない。武器をとって戦うことが絶対的な価値をもつ戦時にあって、「戦えない」性である女性は、平時以上の周縁性をまぬがれえないからである。しかし、第一次世界大戦が国民を広く巻き込んだ総力戦であったことを踏まえるならば、銃後を生きた女性への着目は大戦の全容を明らかにする上で不可欠であるといえる。

 このたび、 ‘Athena Sources in the History of World War I’ として復刻される史料はいずれも、イギリスの主要紙が手がけた定期刊行物で、豊富な写真と網羅的なトピック、女性を含む豪華な執筆陣を特徴としている。たとえば、そのなかの一つThe Illustrated War NewsのNew Seriesには、「女性と戦争」と題する一連の特集記事が組まれており、非戦闘員である女性に対する関心の高さがうかがえる。

 大戦中、多くの国では女性に兵士としての資格を与えなかったが、前線には、負傷兵の救護にあたった赤十字部隊や、後方支援活動に従事した陸軍女性部隊など、少なからぬ女性の姿があった。また、銃後の世界においても、女性は出征した男性の代替労働力となることを期待された。その職域は、伝統的に「男の仕事」とみなされてきたバスや路面電車の車掌、ポーター、郵便配達といったものから、農地や炭鉱での肉体労働、熟練技術を要する工場労働や一部専門職にまでおよんだ。

  兵士になるか、ならないかという選択肢しかもちえなかった男性に対し、「兵士になれなかった」女性の前には、戦前とは比べものにならないほど多くの選択肢が存在した。前線から銃後まで、大戦の実相を活写したこれらの史料は、女性たちの多様な大戦経験をあぶりだす上で、貴重なツールとなるに違いない。