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意義の大きいアメリカ女性人名辞典の復刻

有賀 夏紀 埼玉大学名誉教授

アメリカ女性史・アメリカ史研究の上で、価値ある2点の女性人名辞典が復刻されることになった。1971年、3巻本の女性人名辞典Edward T. James, Janet Wilson James, and Paul S. Boyer, eds., Notable American Women, 1607-1950: A Biographical Dictionaryが出版され、70年代以降の女性史研究興隆の皮切りになった。その後第4195175)、519761999)も出版され、 この女性人名辞典はアメリカ女性史・アメリカ史研究に大きな影響を与え、女性、少なくとも指導的地位にあった女性に関する最も信頼できる情報源として、また便利な参考図書として広く使われてきた。本シリーズのPart 8はこのNotable American Womenの序文でも言及されている2点の復刻であり、これら2点は人名辞典としても重要であるが、史料としても大きな価値があるといえる。

 まず、人名辞典としての価値について述べると、第2930巻のFrances E. Willard and Mary A. Livermore, eds., A Woman of the Centuryは、19世紀において指導的地位にあったアメリカ女性1470名の伝記を多くの肖像写真入りで掲載し、第3132巻のJohn  William Leonard, ed., Woman’s Who’s Who of America20世紀初め革新主義時代に活躍した約10,000名の女性の記事を載せていることが注目される。これらの辞典では、上のA Notable American Womenは取り上げられていない女性も多く登場し、3つの辞典を合わせて使うと、19世紀から20世紀における指導的アメリカ女性のほぼ全容がつかめるだろう。2つの辞典が、復刻版の出版により利用しやすくなったことは、アメリカ史、女性史のより充実した内容の情報を得る上でありがたいことである。

 これらの辞典は以上のような人名辞典そのものとしての価値のほかに、史料的価値がある。読者はまず、A Woman of the Centuryの編者がFrances Willardとなっていることに興味を抱くであろう。Willardは、キリスト教婦人矯風会(Women’s Christian Temperance Union, WCTUの会長であり、女性参政権運動家であった。Willardは、この本の序で、著名な女性だけでなく、様々な分野の女性の活動を示すユニークな書物であることを記し、19世紀は女性の世紀である」と述べている。辞典が当時のフェミニストの証言となっているとも言えるだろう。そしてWoman’s Who’s Who of Americaは、参政権運動研究の貴重な史料である。編者のLeonardは辞典に掲載されることになっている女性たちから参政権支持か否かのアンケートをとり、その意見を記している。しかも、回答者の集計も報告しているのである。女性参政権支持 4787,反対 773、無回答および中立4084と。

 以上のように、Part 82点は、人名辞典としての価値はいうまでもないが、史料的価値の高い貴重な文献でもあり、今回の復刻の意義は大きい。