Athena Press

 

両大戦間期のイギリス女性(男性も!)の生きざまに迫る貴重な資料の復刻

河村 貞枝 京都府立大学名誉教授

 

 このコレクションは、アティーナ・プレスから復刻された『イギリス女性年鑑1899–1916』に続くものである。これによって、1910年代、1920年代、1930年代に出版されて、残存しているイギリス女性の重要なディレクトリ・人名録の復刻が完結する。

 この時代は、周知のように、イギリスの女性運動(フェミニズム)の歴史において極めて重要な時期であった。中でももっとも有名なのは、ヴィクトリア時代の半ばから執拗な運動が展開されてきた女性参政権要求が、第一次世界大戦を経て、1918年と1928年における二つの「国民代表法」によって女性に選挙権・被選挙権が与えられるという結末を見たことである。また、1920年代には、不名誉な女性差別的諸法令に対して、重要な改正が次々行われた。とくに1919年の「性差別廃止法」によって、公務員的な専門職や治安判事職等に女性が参入できるようになった。また、1920年代に相次いで、既婚女性の財産相続権、婚姻事件において男女の離婚事由を平等なものとする法律改正が実現した。これらは、両大戦間期の女性解放史の画期的事件のほんの一例である。

 今回の「イギリス女性史レファレンス、1910–1930年代」は、47-51巻までの全5巻で成る。ディレクトリ、人名録というものは、利用者にきわめて多種多様な使い道を提供してくれる人物情報の宝庫である。イギリスの多様な女性史に関心をもつ者は、まずは『イギリス国民伝記事典』(DNB)に頼るが、とくにミッシング・パーソンズ版に続いて、21世紀に入ってオックスフォード版DNBが再編成されて、その後もオンライン版が次々とエントリー数を増加させている。このDNBは、人物が死して初めてエントリーの対象となる。そこが、本コレクションの人名録の項目とは異なる。本コレクションが扱う両大戦間期に現存しリアルに活動していた人物や団体の資料集、これまでマイクロフィルム等でしか利用できなかったものが、冊子体で復刻されるということを何よりも喜びたい。

 第47巻、The Suffrage Annual and Women’s Who’s Who は、第一次世界大戦勃発が予測されていない1913年に刊行された、女性参政権諸団体の名簿と活動家の人名録である。書名通り「年鑑」、つまりペリオディカルであり、以後毎年の継続刊行を予定していたはずのものが、「予期せぬ」大戦勃発によって、本年鑑一回きりの刊行物となった。編者A. J. R.に関しても、残念ながらいまだ特定できない。ここには、692名の女性と69名の男性の個人情報が提供されている。穏健派「女性参政権協会全国同盟(NUWSS)」と戦闘派「女性社会政治同盟(WSPU)」の二大女性参政権団体にとどまらず、その他の大小の参政権運動諸団体への加盟状況や活動状況、人間関係や個人的趣味などの情報も得られる。本年鑑を丹念に分析すれば、女性参政権活動家の階級分析等も可能となってくる。また編者同様に詳細が不明だが、この年鑑が、1909年にロンドンのオックスフォード街に小売業店として始まった、いまやハロッズと並ぶデパートメント・ストアとして有名な「セルフリッジズ」がスポンサーとなっていたことにも、大戦前夜に日常化された政治の一面を感じさせられよう。まさに「個人的なことは政治的である」という言葉を思い起こされる。

 第48巻、The Woman’s Year Book, 1923–1924は、「平等市民権期成協会全国同盟(NUSEC)」によって編纂されて、1923年にWomen Publishersが刊行した年鑑である。NUSECは、第一次世界大戦の終わりにやっと制限付きにしろ女性参政権が成立したことにより、NUWSSが1919年の年次大会において、NUSECへの編成替えと改名がなされて、1923年には、家族手当をめぐる指導者間の抗争から、会長がミリスント・G・フォーセットからエリナー・ラスボーンに代わった。NUSECは、制限付き選挙権が全ての女性に付与されるためにロビー活動を続け、同時にその他あらゆる種類のフェミニスト的諸課題のために活動を続けた。本年鑑は、1920年代の女性の運動についての重要な一次資料である。政治、教育、法律等について女性に関わるあらゆる局面を網羅するが、それにとどまらず、女性にとってのキャリア、専門職、さらに労働市場における女性の立場について特別な注目を払っている。本巻の寄稿者には当時の有名な女性が名を連ねている。フォーセットとラスボーンのほかに、アバディーン侯爵夫人、マーガレット・ボンドフィールド、マーガレット・ルウェリン・デーヴィス、ローンダ子爵夫人など枚挙に暇がない。残念なことに、本年鑑も続刊は出ず、同時刊行を計画されていた「人名録」も実現しなかった。

 第49 & 50巻 Woman’s Who’s Who (1934)と第51巻 The Lady’s Who’s Who: Who’s Who for British Women (1939)は、それぞれHutchinsonとPallas Publishingの出版であり、ともに1930年代のイギリス女性の基本的な参考文献である。前者は、本巻のサブタイトルが示すように、「芸術、慈善、教会、公務員職、教育、法律、文学、ジャーナリズム、医業、音楽、議会、科学、社会および自治体の諸問題、劇場、フィルム事業、スポーツ等々に傑出した」あらゆる女性を含んだ。この出版事業は、2部構成で、前半(49巻)が「伝記」、後半(50巻)は女性が活動する諸団体のデレクトリとなっている。続く第51巻は、サブタイトルにあるように「社交界、芸術、専門職、ビジネスなどで傑出した女性で構成されている」が、出版者はこの人名録を編むために、質問用紙を10万通近く送付したという。この人名録が後続の巻を出せなかったのもさもありなんと感じさせられよう。