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『美術と風俗の中に見るコルセットー十三世紀から二十世紀まで』刊行によせて

佐々井 啓 日本女子大学教授

 このたび、フェルナン・リブロン(パリ・コルセット卸製造業者組合会長)、アンリ・クルゾ(ガリエラ美術館学芸員)によって1933年に刊行されたLe Corsetの復刻版が刊行されることになった。フランスの服飾史・風俗関係研究者、文学関係者にとっては、たいへん喜ばしいことである。

 本書は、服飾史において避けることのできない下着であるコルセットとそれに付随するアンダースカートなどに焦点を当てた古典的名著であるといえよう。モードの中心であったフランスにおいて、服飾や装飾品に関する研究書は数多く、さまざまな資料を駆使した価値ある研究がなされていることは周知の事実である。しかし、それらの研究書においても、下着について多くのページを割いているとは言い難い。

 ここでは、13世紀から1932年までという長い期間の服飾形態と下着との関係を明らかにし、いわゆるコルセットと呼ばれる補正下着の誕生とその変遷を、多くの図版や遺品などの視覚的資料を用いて考察している。さらには文学のなかでのコルセットの記述など、それぞれの時代を彷彿とさせる内容が盛り込まれている。

すなわち「フランス文学がコルセット製造業の視点で捉えられている」と述べられ、とりわけクレマン・マロ、ラブレー、モンテーニュ、ロンサール、タルマン・デ・レオ、さらにはラ・フォンテーヌ、スカロン、ルニャール、マリヴォー、ヴォルテール、バルザック、そしてアルフレド・ド・ミュセなどの作品から、私たちは生き生きとしたコルセットについての記述を読み取ることができる。

 本書の編集方針は、17世紀末までは風刺文学、詩、印刷物における描写に限り、読者が引用文を参照しながら、コルセットのラインや形がドレスに与えた奇妙なスタイルを理解し想像できるように、各時代の服装の中で最も特徴的、典型的なコルセットの複製を掲載することによって補うこととする、と説明されている。

 また、1830年から1932年まではコルセット製造業者による多数の製品は取り扱わずに、各時代のシルエットや身体を完全に再現することを目的としてまとめている。しかし、付録として1769年に書かれた「婦人と子どものコルセットの裁断」、「コルセット産業」などの紹介があり、コルセットの製造方法を詳しく知ることができる。

 さらに本文中の挿絵だけでなく、76枚の版画(カラー12枚)を加えた本書によって、フランスの風俗と文化の歴史の一コマがコルセットを通して理解できる、といえるのではないだろうか。