この度ジョン・グラン=カルトレ(1850–1927)の著作が三冊復刻されることを、心より慶ぶとともに、アティーナ・プレスの勇気ある英断に喝采したい。彼は一般にカリカチュアの専門家として知られている。実際フランスのみならずドイツ、オーストリア、スイスのカリカチュアに関する本を1885年に出版し、1898年には、ドレフュス事件をめぐって描かれた数多くの風刺画を一書にまとめて、註釈を加えたこともある。しかし、彼の仕事はそれに尽きるわけではない。今日から見れば、彼の著作全体が文化史、風俗史、表象の歴史などにまたがる先駆的な業績だったことをまず指摘しておこう。
グラン=カルトレは、一つの時代と社会を全体的に理解するためにイメージ(視覚資料)が貴重な助けになる、という基本的な認識に立っていた。その点で、まさしく19世紀の人間である。書物に図版や挿絵を添えることはすでに中世の写本の時代からあったが、それはあくまで付属品であった。それに対して1830年以降、挿絵は単なる付属品ではなく、それ自体が文化的産物として存在感を主張するようになる。ヨーロッパの19世紀は、言葉のあらゆる意味でイメージの時代だったのである。それまでの複製技術に加えてリトグラフィー(石版画)、木口木版画、写真などが使用され、パノラマやジオラマなどの視覚装置が人々に都市と風景のスペクタクルを提供した。実証主義的な19世紀は経験主義を重んじ、自然や地理や社会に関する経験的な知識と情報を重視したし、そのために視覚的な再現が有効な手段であることに気づいたのだった。
グラン=カルトレは『フランスの風俗とカリカチュア』(1888)の序文で次のように述べる。「いまや公式の記録と著名人の伝記だけで歴史を書くことはできない。イメージもまた人類の年代記の一部となった」。この著作は第1章で16–17世紀、第2章で18世紀、第3章で革命期を扱っているものの、その後の章はすべて19世紀に関係している。政治と社会風俗の風刺をとおして、第一帝政から第三共和制までを時代区分ごとに跡づけてみせる。国王、皇帝、聖職者、軍人などの権力者をめぐる風刺画を分析すると同時に、女性のモードと社会運動(とりわけ第二共和制期)に関する貴重な挿絵が収められている。そしてもちろん、フィリポン、ドーミエ、ガヴァルニ、グランヴィル、シャムなど19世紀を代表する風刺画家たちの作品にも十分な目配りがなされている。「風俗史」や「私生活の歴史」がまだ歴史学上の概念として確立していなかった時代において、この著作はまさにその先鞭をつけたと言ってよい。
『19世紀フランス:階級、風俗、慣習、衣装、発明』(1893)は同じ時代を対象に据えながら、より文化史の領域に踏み込んでいる。第1章でグラン=カルトレは19世紀を特徴づける時代精神は何かと問いかけ、それは一方で革命の精神、自由を求める闘い、平等と正義を求める社会理論の台頭であり、他方で科学と進歩にたいする信仰、産業革命、速度とエネルギーの飛躍的な増大だとした。国家元首、宮廷、諸々の階級、社会主義、女性とその役割に関する章は前者に関連し、鉄道、蒸気機関、電気、医学、写真、博覧会をめぐる章は後者の側面を記述する。さらに子供と母性、サロンとクラブ、市民の娯楽、国家の祭典と儀式、料理とレストランなどにそれぞれ1章割かれている。取り上げられた主題の多様性によって、本書が19世紀をめぐる包括的な文化史であることが納得できる。収められた多数の鮮やかな挿絵は国立図書館やカルナヴァレ美術館の公的コレクション、版画の収集家として有名だったアンリ・ベラルディの個人コレクション、そして『シャリヴァリ』や『イリュストラシオン』などの新聞・雑誌から採られた。19世紀についてこの時代に著されたもっとも美しく、かつ体系的な書物の一つであることに疑問の余地はない。
『フランスの年鑑:書誌・図像学的総覧』(1896)は前二作に較べると地味だが、学問的価値の点ではまったく遜色ない。ここで著者が「年鑑
almanach」と呼んでいるのは狭義の年鑑にとどまらず、正月のお年玉用に売り出された暦つきの刊行物、年報、手帳など1年の定まった時期に刊行されたあらゆる種類の印刷物を含む。書誌的な情報だけでなく、著者が各資料について内容と意義が分かるように註釈を添え、歴史的に興味深いページはそのまま抜粋を載せている。各資料の価値にはばらつきがあるが、著者が確認した年鑑はすべて収録したという意味でかなり網羅的な書物である。挿図の面では、18世紀と革命時代に大きな比重をあたえており、その点で前二作を補完するものだ。暦と年鑑の類が、とりわけ民衆文化の解明にとってきわめて重要であることは周知のところだろう。
性質と対象が異なるグラン=カルトレの三作は、かくして近代フランスの文化史・風俗史に関心をいだく者にとって比類ない参考文献なのである。