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第二次世界大戦6年間の軌跡

木畑 洋一 成城大学名誉教授

 

 1939年9月、ナチス・ドイツのポーランド侵攻、イギリスとフランスの対独宣戦布告によって、第二次世界大戦のヨーロッパ局面が始まった。今回復刻されるPictorial History of the Warは、その開戦時から大戦のアジア局面における日本の敗北で戦争が終わった後の1945年9月まで、6年間にわたってイギリスで毎週発行された情報誌である。もともと週刊誌として出された本誌は、数か月分(当初は2か月、後には3~6か月)ずつまとめて製本され、26巻本という形をとることになった。

 こうして作られた第1巻の冒頭には、1919年11月の第一次世界大戦休戦日から39年9月に至る戦間期ヨーロッパについての詳しい叙述が、「歴史的序」として付されている。その次にくる本来の第1号目は、「戦間期のドイツ」(無署名)という大戦前史の説明から始まり、次いで「なぜイギリスは参戦したか」(サー・フィリップ・ギブズ筆)が論じられる。そして最後の第26巻(313号が最終号)は、「日本に天罰がくだった日」(日本による降伏文書調印時の米国のトルーマン大統領とマッカーサー将軍、ソ連のスターリン首相の演説からの抜粋)という記事で締めくくられている。本誌ではこのようにして、大戦前史(ただし戦争のアジア局面での前史は扱われていない)から戦争終結までの歴史が、多くの写真・図版とともに読者に提供されているのである。毎号、戦争がどのように推移しているかは、「戦争解説」(Commentary on the War)というセクションで解説されており、日々の具体的な出来事に関しては、「戦争略史」(History of the War in Brief)と題する欄があてられている。

 本誌は画報(Pictorial)と銘打っているが、文章にも相当スペースが割かれている。その文章は上記の例からも分かるように、無署名のものもあるが、筆者名が分かるものも多い。たとえば、先に触れたサー・フィリップ・ギブズは、著名なジャーナリストである。また39年9月3日の開戦に際しての国王ジョージ6世による演説をはじめ、重要な演説やラジオ放送類も豊富に収録されている。その中でとりわけ目立つのは、1940年5月に首相に就任してイギリスの戦争を指導したチャーチルの演説の多さである。第1巻に収録されている海軍大臣時代のチャーチルによる「戦争の最初の一月」というラジオ放送を皮切りに、彼の議会演説やラジオ放送の主要なものは、各巻でみることができる。またローズヴェルト米国大統領やスターリンの演説も要所におさめられている。その点で、本誌は大戦についての資料集としても役に立つ。

 このように構成された本誌は、戦争の経緯についての情報を読者に提供しつつ、イギリス国民の戦意を高揚させることを目的としていた。戦場での死体写真のような戦争の残虐さを示す図版が少ないことも、そうした性格を示していると考えられる。しかし、それは当然のことであり、そのような制約のもとで、大戦についての多彩なイメージが提供されていることを重視すべきであろう。

 一例をあげてみよう。40年5月末、ドイツ軍によって追い詰められた英仏軍が、ドーヴァー海峡を渡って撤退した「ダンケルクの戦い」は、英仏側の負け戦さでありながら、撤退作戦の成功によって英仏軍の士気を鼓舞する役割を演じたが、これについての文章での説明には、6月4日の議会で作戦を報告するチャーチルの演説があてられている。そして、海岸に列を作る兵士、海に入って救助船に向って歩く兵士、兵士を満載した軍艦や民間船(この作戦で民間船の働きはめざましかった)、帰還した兵士にお茶をふるまう女性、「ダンケルクからの最後の到着者」としてのフランス人女性電話交換士、といった写真がならんでいるのである。

 筆者が長く関心を寄せてきた、イギリス帝国各地からの戦争協力という問題も、本誌で結構重視されている。帝国を挙げての戦争というイメージの提示である。たとえば、ドイツ空軍による空襲にさらされながらイギリスが一国でドイツに対峙していたといってよい1940年秋の第8巻には、当時の植民地相ロイド卿と1920年代に植民地相だったレオ・エイマリの二人による植民地の戦争努力についてのラジオ放送が収録されている。日本軍によるインド侵攻の危機も生じてきた1942年春、イギリス政府は、インドに独立を約束する方向へそれまでの姿勢を転換したが、第16巻では、その任務を負ったサー・スタフォード・クリップスのインド人に向けた放送「インド:自由への第一歩」に接することができるのである。

 その他、女性の役割であるとか、戦争経済の問題とか、焦点を絞って本誌を繰ってみることも一興であろう。それの助けになるのが、各巻につけられたきわめて詳細な写真・図版リスト(索引といった方がよい)である。自分の知りたい対象を扱っている写真や図版をこのリストで見つければ、それに関わる文章にも接する可能性が高い。パラパラと頁を繰ってみるのもよいが、いろいろな使い方ができそうな雑誌であると考えられる。