Edited by Ruth Kinna, Loughborough University, UK
近代テロリズム基礎資料集
全3巻 + 別冊
ISBN 4-902708-20-5 ・ c. 1200 pp.
品切れ 定価 本体80,000円+税 ▶ 2006年
現代につながる近代テロリズムについての多様な資料を集めた、今日的課題に直結した資料集。
19世紀末から20世紀初頭にかけての、過激化の道をたどった左翼テロ、革命テロについての第一級の資料を計143点収録しています。
理論家・革命家のパンフレットや書簡、欧米各国の新聞論説をはじめ、英国内務・外務各省の非公開資料までをも含む貴重な内容です。
Contents
Volume 1
Volume 2
Volume 3
▶ ▶ ▶ ▶ ▶ 推薦文 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶
過去、現在、将来のテロリズム研究の架け橋――貴重な第一級資料集
宮坂 直史(防衛大学教授)
テロリズムは時空を超えた普遍的な現象である。テロリズムの歴史的な研究は、ローマ支配に抵抗するエルサレムの「ゼロテ派」、
中世のイスラム教異端派「アサシン」、そしてテロリズムという言葉が使われはじめたフランス革命期などに焦点が当てられてきた。
だが、近現代的な意義を求めるならば、19世紀末から20世紀初頭にかけてのアナキストに代表される左翼テロ、革命テロの興隆こそが、その原点として研究対象
になるだろう。この時期のテロは、政治的イデオロギーを掲げて国家、制度、あるいは生活様式に反乱し、今日の言葉でいえばグローバル・テロの先駆けともいえる
ほど広く欧米諸国に恐怖を広げた。そして、ダイナマイトなどの爆発物が使用されるなかで、それがもたらす「社会心理的な衝撃」がテロの目的達成に不可欠である
とテロリストに意識されるようになった。この時期のテロはともすれば国家指導者の暗殺という手法が想起されるが(1881年のロシア皇帝アレクサンドルⅡ世暗殺事件など)、同時に、「イノセント」な人々を巻きこむような過激化の道もたどるのである。
今回、アティーナ・プレス社から出版されるEarly Writings on Terrorism は散逸している当時の貴重な論考をリプリントした3巻からなる第一級の資料集であり、
テロリズム研究の重要な手引きとなるであろう。ここには当時の論点を網羅するような構成上の工夫もみられる。第1巻は「行為によるプロパガンダ」、「ニヒリズム」、
「ヘイマーケット事件」に関する47本の資料を、第2巻は「アナキスト」、「国家テロ」について40本、第3巻は「革命派の対応」、「テロ対策」で56本、計143本にわたって
選りすぐりの著名な理論家、実践家のパンフレット、書簡、欧米各国の新聞論説が集められた。この時代のテロ実行者と国家・社会の相互関係のダイナミズムを考証するには
十分なものであろう。
しかもこの歴史的宝庫には、今日のテロやテロ対策を考える鍵も含まれている。編者のRuth Kinnaが指摘するように、19世紀末から20世紀初頭のテロの時代には二つの
主要な論争があった。一つは自由を抑圧する方法でテロリズムを抑えることの是非、もう一つは、テロリズムを政治的行為とみるのかそれとも犯罪的行為とみなすのかであった。
そしていま、テロリズムが頻発、大規模化し、テロ対策が国際的に進展するなかで、かつてと同様の議論が蒸し返されているのである。100年遡ってテロを研究する
今日的意義をここに見出すことができよう。
今日、グローバル化に反対する運動の一つにアナキズムがあることはよく知られている。一国単位での革命・反革命ではなく、全世界的に広がる格差を問題視し、
秩序挑戦的なイデオロギーが台頭しつつある。19世紀末のテロに立ち返ることは、将来のテロリズムを占う上でも示唆を与えてくれるはずである。
Early Writings on Terrorismは、歴史的文書の価値に加えて、日本ではまだ発展途上にあるテロリズム研究のなかで、過去、現在、将来のテロを
相互関連的に思索する資料集としても刊行が待ち望まれる。